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白無垢伝統文化

花嫁姿を見せたい人はだれですか。古くて新しい「自宅で花嫁」という選択

入籍したら結婚式をする。二人のけじめのため。家族に花嫁姿を見せるため。親しい人に報告をするため。家同士のつながりを深めるため。いろんな理由があるけれど、その方法が画一的になっているのかもしれません。「結婚式って自由でいいのかも」ということを、三澤武彦さんが撮影する『自宅で花嫁』は教えてくれます。

撮影/中村将也(取材写真) 取材・文/舟川直美 写真提供/三澤武彦

結婚式の本質ってなんだろう

人間性が見える瞬間を探して


「こんな結婚式もあるのか」
お仏壇のある和室に正座する新郎新婦、その前をネコが悠々と横切る。日常と非日常が混じり合った瞬間。『自宅で花嫁のすすめ』(玄光社)の表紙を見て、思わず手に取った。
撮影したのは著者である三澤武彦さん。90年代から結婚式の撮影を始めたという。

「当時、結婚式の撮影はカメラマンにとって日銭稼ぎのアルバイトという感覚だったんですよ。自分が行けない現場を他のカメラマンにお願いすると、ピントも合わせずに撮影されたり、ひどい目に遭ったこともありました。それが嫌で、[結婚式の写真]を写真のジャンルにしたいと思ったんです。真剣にやっている人がいなかったから、真剣にやってみようと。『結婚式の写真で日本一になる』というのを当時やっていました」
 
 
三澤さんをはじめとしたカメラマンの情熱により、今ではブライダルフォトは写真の一ジャンルに成長している。そんなブライダルフォトで印象的なのは、きれいなカメラ目線の決め顔よりも、緊張が解けた瞬間の素の表情だったりする。そんな「一瞬」を切り取るのが三澤さんの得意とするところだ。
 

「結婚式って進行が分単位でびっちり決まっていて、お芝居みたいなところもあるんですよね。そのお芝居の合間に、〈本当の人間性〉が垣間見える瞬間があって。自分はそれを狙っていました。ケーキカットをきれいに撮ることよりも、人間味が出る部分を」
 

 ところが、いくつもの結婚式を撮影するうちに、あらかじめ台本があるホテルや式場で、垣間見える何パーセントかの人間性を追うことに三澤さんは限界を感じはじめた。そんなときに巡り会ったのが、「式に出席できないおばあちゃんに花嫁姿を見せたい」という花嫁さんからの依頼だった。


「年をとった親族と写真を撮りたくて」自宅での前撮りを決めた花嫁さん。深い感謝の気持ちが伝わる。

「前撮りのつもりだったんです。〈じゃあ、おばあちゃんちで花嫁姿を撮ろうか〉って。ところが、これが結婚式より結婚式らしい時間だった。式場から離れて、家族とやり取りがあるだけで、それぞれの人間性・キャラクターが出るんです」
「結婚式ってなんだろう?」「なんのためにやるんだろう」。三澤さんの頭の中で、長年の疑問がはっきりと形になって顕れた。

 生まれ育った家で、家族に見守られながら花嫁支度をする。愛着のある街を歩く。そこに、結婚の本質があるのではないか。「自宅で花嫁」を撮影することが自分のライフワークだと確信した三澤さん。「もうひとつの結婚式」と名付けて撮影をつづけるうちに、写真家としての代表作になった。


ちゃぶ台にぼんぼん時計…。三澤さんの事務所は古民家の味わいが。

「自宅で花嫁になること」、つまり「生まれ育った家で嫁入り支度をして嫁ぐこと」はわたしたちにとって新鮮に映るが、ほんのひと昔前までは特別なことではなかったのだという。式場で挙式と披露宴を行うほうが効率がよいという理由から、その割合はどんどん減っていったのだとか。そうこうしているうちに、ウエディングプランナーも「家から出る」結婚式を経験することがなくなり、勧めることもなくなったというわけだ。


両家揃って自宅の広間で記念撮影。見慣れた部屋が違った表情に写る。

 それにしても、同じ結婚式の写真なのに受ける印象が違うのはどういうことだろう。どの花嫁さんからも生き生きとした物語が感じられるのだ。

「ストーリーを優先するか、キャラクターを優先するか、でしょうか。結婚式場で写真を撮ると、〈結婚式をします!〉というストーリーを写すんですね。入場、高砂で挨拶、ケーキカット、イベント……。ストーリーを決まった流れで撮っていく。でも、家では花嫁さん、お父さん、お母さん、それぞれのキャラクターを撮っていく。進行表じゃなくて、キャラクターや背景が結婚式を作っているという気がします」


亡き祖母に結婚を報告する花嫁さん。
自宅で花嫁支度をすると、お母さんやおばあちゃんら女性陣はその様子を見ようと集まっている。そんななか、花嫁支度を待つさびしそうに待つお父さんの姿が写されることも。何気ない表情が切り取られるのも、“自宅で”支度をしているからだろう。


白無垢姿になった娘を見守るご両親。着飾らないいつもの日常着は、「あの頃」の記憶を鮮明にする。

 本には嫁入り支度について、具体的なやり方は書かれていない。どうすればよいのか尋ねると、
「風習って地域ごとに違うし、正解があるわけではない。例を出すと、『こうしないといけない』とテンプレートのように思い込んでしまって、自由なはずの結婚式がやりづらくなってしまいます。決めるのは新郎新婦自身だと思うので、本にも掲載しませんでした」
 三澤さんによると、関東と関西では結婚式の雰囲気も違うそう。西日本のほうは、家のお祭り・地域のお祭りといった印象があるのだとか。「だから面倒だっていう人もいるけれど、基本は〈楽しいもの〉っていうノリがありますね」

 『自宅で花嫁のすすめ』には何組かの新郎新婦が登場するが、その冒頭を飾っている花嫁はウエディングプランナーの女性だ。結婚式について日々思案していたであろう女性が、自身は自宅で花嫁になることを選んでいるという事実。彼女もまた、結婚式の本質について考えていたのかもしれない。
「削ぎ落としていくと、やりたいことはなんだろうというのが見えてくるのかもしれません」

〈自分の家で白無垢を着たい〉。彼女はその一点だったという。


深々とお辞儀をする母の姿に娘を思う気持ちが表れる。

「白無垢」に秘められたオーラ   

 自宅で花嫁になる人は、白無垢だけでなくドレスの人ももちろんいる。しかし、日本家屋や風景になじむからなのだろうか。白無垢姿の花嫁には特に惹きつけられるものがある。

「白無垢には特別なオーラがありますよね。着る人を問わず、オーラが発生する。どんな豪華な色打掛でも表現できない緊張感がある。そして、ドレスよりも白無垢。撮影をしていると、やっぱり日本人は着物に対する反応が違うんだと実感します」
 最初は「家でこんな大変なことを…」とブツブツいっていた新郎やお父さんも、白無垢姿を見ると、カメラを持ち出してくるのだとか。「もう白無垢マジックですよ」と三澤さんは笑う。


花嫁さんが歩くと不思議と人が集まるのだとか。

 場合によっては、自宅で三三九度や指輪の交換を行うこともあるそうだが……。
「こないだ、車の運転を控えた新郎が三三九度の盃を断ると、新郎の父親が『俺が飲むわ』と代わりに飲んでいました(笑)」。みんなが大笑いするなか、三三九度が終わっていく。そんな温かな結婚式だったそうだ。

「白無垢姿」を見せたい人に

 最後に、三澤さんが一番印象に残っているシーンやエピソードを尋ねてみた。「おばあちゃんに花嫁さんが白無垢姿を見せるときは、毎回もらい泣きしてしまうんですが…」と言いながら、本にも掲載されているおばあちゃんの写真の裏話を教えてくれた。


サプライズで介護施設にいる祖祖母の元を訪れた花嫁さん。一瞬の表情が一生の宝物になる。

 介護施設にいるおばあちゃんに白無垢姿を見せにやって来た花嫁。驚きと感動で声が出ないおばあちゃん。その瞬間を撮ろうとカメラをかまえる三澤さんの背後には、実は十数人のおばあちゃんが窓に張りついて眺めていたのだという。
「女性って花嫁さんにこんなにもラブコールを送るもんなんだなって…。改めて感心しました」
施設から他者の撮影は禁止されていたため写真は残っていないけれど、花嫁さんの姿を見つめるおばあちゃんたちの姿は三澤さんの中に今も強烈に残っている。

あなたが、花嫁姿を見てもらいたい人はだれですか?

 

プロフィール

三澤武彦プロフィール写真
三澤武彦(みさわ・たけひこ)●釜石生まれ、名古屋育ち。日本デザイナー学院名古屋校グラフィック科卒。独学で写真を身撮りつづけ、1986年「三澤武彦写真事務所」を設立。1990年代前半より結婚式の撮影を始め、2011年より自宅での結婚式を撮影する「もうひとつの結婚式」をスタート。2018年『自宅で花嫁のすすめ』(玄光社)を出版。


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